【3227】 ○ 伊坂 幸太郎 『AX(アックス) (2017/07 角川書店) ★★★☆

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「殺し屋」シリーズ第3作は、友情物語であり、夫婦・家族の愛情物語でもあった。
AX アックスt (tankobon).jpgAX アックスAX アックス (角川文庫).jpgAX アックス (角川文庫)

 「兜」は普段、文房具メーカーの営業として働くサラリーマンだが、実は超一流の殺し屋、ただし、家では妻に頭が上がらず、人息子の克巳も呆れるほどだ。兜がこの仕事を辞めたい、と考えはじめたのは、克巳が生まれた頃だった。引退に必要な金を稼ぐために仕方なく仕事を続けていたある日、爆弾職人を軽々と始末した兜は、意外な人物から襲撃を受ける。こんな物騒な仕事をしていることは、家族はもちろん、知らない―。

「殺し屋」シリーズ.jpg 作者の『グラスホッパー』『マリアビートル』に続く「殺し屋」シリーズ第3作であり、AX、BEE、Crayon、EXIT、FINEの全5編からなる連作です(目次でDの頭文字がないのが気になる)。

 過去の作品の殺し屋も回想風に出てきますが、本編と直接的には話は繋がってはいません。前2作は、3人(3組)乃至4人(4組)の殺し屋のサバイバルを賭けたゲームのような感覚の作品で、語り手がその都度交代し、章の冒頭にその章の語り手の印鑑が押されていました。

 今回は、表向きは恐妻家のしがないサラリーマンだが、実は凄腕の殺し屋であるという(これに似たパターンは『グラスホッパー』のキャラクターの中にもあった)「兜」を中心に、前半部分は彼一人の視点から話が進む点がこれまでと違っています(したがって、途中までは章の冒頭の印鑑は「兜」が続く)。

 その「兜」が中盤で、仕事の依頼を受けたものの、ターゲットである相手は友達であったため、家族と友達を守るためにある決断をします(意外とあっさり?)。後半は「兜」の息子「克己」が語り手となりますが、かつて「兜」に助けられた友達が、今度は「克己」を助けることになります。そっか、恩返しの話だったのだなあ。殺し屋同士の友情物語でした。

 そして、一見して唐突な最後の章は、これ、「兜」と妻の最初の出会いを描いたものだったのだなあ(プロローグ的位置にエピローグ的内容を持ってきている)。つまり、息子にも揶揄されるほどの恐妻家の「兜」でしたが、実は妻をすごく愛していたのだという、夫婦、家族の愛情物語でもありました。

 5つの短編の集合体で、その物語同士が少しずつ繋がっている連作短編集のスタイルを取ることで、スリリングな殺し屋の物語としては、やや前2作に比べインパクトが弱かったでしょうか。

 それでも個人的には、『マリアビートル』の「檸檬」とか「蜜柑」とか、前作の登場人物が「兜」の回想の中に出てきたりして、結構"思い出し笑い"的に楽しめました(「檸檬」も「蜜柑」も前作で死んでしまったが)。

 ただ、この作品を単独で読んだ人にはイマイチだったのではないかという気もします。前作を読んでいることを前提とした評価は○で、読んでいないことを前提とした評価は△といったところでしょうか。まあ、前作を読んでいない人も読みたくなると思われ、そこが作者の上手いところかもしれません。

【2020年文庫化[角川文庫]】

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This page contains a single entry by wada published on 2023年1月 7日 14:24.

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